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5.202022
ストーマ用パウチの剥がれ、捲れの原因とその対策
膨潤タイプの面板の方が捲(めく)れがちって知ってました?
パウチを装着してしばらくすると面板の周辺部から剥(は)がれや捲(めく)れが発生する現象は、オストメイトの方なら誰しも経験されている事だと思います。これをそのままにして入浴やシャワー時にお湯に浸すと、そこから水分が浸透し、その捲(めく)れや剥(は)がれがどんどん加速されていきます。
今回はこの“面板の剥がれ・捲れ”について考えてみます。
面板の捲れは、まずわずかな剥(は)がれにより誘発されますが、1)装着時の接着が十分でなかったり、2)周辺部に皺が寄って隙間が存在している場合と、3)皮膚保護剤の水分吸収により粘着力が低下して剥がれが発生する場合とがあります。
水分は、ストーマ周辺の腹部表面からの発汗によるものと、面板上の皮膚保護剤外周部からのシャワーや入浴など外部から供給されるものとがあります。保護テープ等を貼付しない場合は、夏場を除き汗よりも外部からの水分の侵入の方が影響は大きく、面板周辺部が吸水により溶解、膨潤する様子が目視で確認できます。
また捲れ上がる現象は面板の上の部分に早く発生しやすいものです。
面板上部はシャワーの水滴に直接晒されたり、衣服との擦れがある一方、面板下部や側面はパウチのバッグがプロテクターとなり、剥がれを抑止してくれます。ただしストーマ周辺が傍ヘルニアによりポッコリと出ている場合は、面板周辺の皺寄りで、下部からも発生します。
次にパウチをお腹に貼り付けた際の面板を考えます。
図1のように皮膚保護剤は面板の基板ともいうべきバッキングシート(このシートは防水素材でできていて水を弾きます)の上に塗布されています。
皮膚保護剤は水分を吸収し、溶けるもの(溶解タイプ)と溶けずに膨張していくもの(膨潤タイプ)がありますが、膨潤タイプの面板が水分にさらされた際は、バッキングシートに貼り付いた状態で膨らむことからシートと皮膚保護剤の膨張率の違いにより捲れ方向に力が働き、周辺部から剥がれが発生します(図1-2)。
一方溶解タイプは、保護材が溶けてゆくため、膨潤タイプ程バッキングシートとの間に大きな捲れ力が働くことはありません。
従って、一般的には膨潤タイプの方が溶解タイプの面板より捲れ易いと言えそうです(厳密には一定時間内の皮膚保護剤の水分吸収による①粘着力の低下と②膨張率の関係に依存します)。
■ 剥がれ・捲れの原因とその対策
先の文章でおよその面板の剥がれ・捲れのメカニズムを説明しましたので、これからは実際の対策のお話をします。
□ 原因
面板装着後、あまり時間がたっていないにも関わらず面板の剥がれ・捲れが発生する要因としては以下のようなケースが考えられます。
①:パウチ装着前のストーマ周辺の皮膚洗浄が疎かだった場合
②:ストーマ周辺部に皺やくぼみ、突起が存在する場合(面板周辺部が装着直後にもかかわらず波打ってしまうようなケース)
③:日常生活で腹部(特にストーマ周辺)を曲げる作業、運動が頻繁に発生する場合
④:(季節によって、あるいは他人より)発汗量が多い場合
また、面板周辺部よりストーマ周辺部の面板が先に浮き上がってくるような場合は、⑤:水様便が多い、などの原因が存在します。
□ 対策
これらを防ぐ対策としては、
①:パウチ交換直前のストーマ周辺部の皮膚洗浄を丁寧に行い、皮膚保護剤が皮膚表面に残っていないことを確認してください。ただし洗いすぎると皮膜の油分がなくなり炎症や皮膚損傷の原因となりますので、洗浄後に保湿クリームなどでケアが必要です。
②:周辺部の皮膚の平坦化を目的に、市販の皮膚保護剤(板状、クリーム状、パウダー状等様々あります)の使用が有効です。また③の方と同様な対策として、下でも詳しく述べますが、タック性能に優れたパウチ、テーパエッジタイプの面板、保護テープを有するパウチなどへの変更により、早期面板の捲れ・剥がれの悩みが解決される可能性があります。更に面板周辺部に粘着保護テープを貼付することで、外部からの水分の侵入を軽減したり、衣服の擦れなどで発生する捲れなども予防できると思います。
④、⑤:腹部の発汗量が多い場合や、水様便が多い場合は、吸水能力の高い面板つきパウチがお勧めです。リンク先を参照ください。
次に種々のパウチ(特に膨潤タイプ)を注意深く見てみると、各社剥がれ/捲れを発生し難くするために、様々な対策をしていることが分かります。
■各社の対応
面板としての剥がれ・捲れ対策例にはいくつかの方法が存在します。
対策例1: 皮膚保護剤の初期タック(粘着)性能向上
(写真1)
・イーキン イーキンドット
・ビーブラウン フレキシマアクティブ
これらは装着時の粘着性能を高めることで、複雑な腹部表面(皺など)にもきちんと面板を接着させ、面板と腹部の隙間から水分の侵入や衣服との擦れによる剥がれを予防してくれます。
対策例2: 面板に保護テープを付属
(写真2)
・コンバテック エスティーム
インビジクローズ 中長期
・ホリスター モデルマフレックスFT/FW
これらは面板周辺部の保護テープが、水分の侵入や衣服との擦れを防ぎ、膨張した際にもしっかりと面板を上から押さえ込む役割を果たします。ホリスターモデルマフレックスは、柔らかい保護テープが全周にわたり付属していますが、捲れ対策としてよりも、面板の一部が骨部にあたる方等の対策として、面板を大きくしないための補助の役割として、と説明されています。
対策例3: 面板周辺部の膨潤による体積増加量を軽減
面板周辺部の皮膚保護剤の膨張を軽減する対策です。これには2種類の手法が存在し、
対策例3-1: 面板周辺部の皮膚保護剤の塗布量を外周部に向かって薄く(テーパーエッジ)
(写真3)
・アルケア セルケア1TD
・ダンサック ノバライフ1TRE
これらは、面板周辺部の皮膚保護剤の厚みを薄くすることにより、膨潤量を減らすと同時に腹壁表面への対応力upも期待するものです。
対策例3-2: 面板周辺部の皮膚保護剤を別素材に変更
(写真4)
・コロプラスト
-センシュラミオ1
- ” ” コンケーブ
-センシュラ1
・コンバテック
-エスティーム
やわらか凸シャロー
これらは面板の周辺部だけほとんど膨張しない皮膚保護材を使用しているもので、保護テープ機能を、同一面板に持たせたものとも言えるもので、弊社吸水実験にても、周面部の膨潤はほとんど見られませんでした。
写真5にコンケーブの面板の吸水による変化を掲げますが、周辺部の皮膚保護剤はほとんど変化していないことがわかります。
■最後に
各社それぞれ如何に長期間のパウチ装着を実現するか、これはパウチ交換頻度をいかに減らすことができるかの問題に直結し、ユーザの手間の削減に取り組む姿勢とも考えることができます。
普段何気なく使用しているパウチですが、細かく見ると各メーカの努力の跡が見て取れて面白いものです。
これらの面板のめくれ対策は、きちんとその効果が発揮されていると考えます。更に保護テープを貼付することにより(2,の保護テープ付きは不要)、一層強固な捲れ防止対策が期待できるものです。面板の捲れにお悩みの方は、是非ご検討されることをお勧めします。
以上