Tips
9.102020
汗、水に強いパウチ面板は? -1-
パウチの寿命を決定付ける(各社)面板の吸水力比較1
オストメイトにとってのパウチ選びの際に最も重要なパーツは”面板”と言って間違いないと思います。面板そのものがパウチの交換頻度を大きく左右し、肌との相性でトラブルが無いことを大前提に、”臭い漏れ”や”着け心地”など様々なポイントで選ばれていると思います。
”肌との相性”に関しては装着者に依存することなので実験では検証できませんが、面板のパフォーマンスを客観的に評価する上で重要なポイントは、腹壁をしっかり保護しながら(できれば長期間)接着することにあります。
前回のパウチ耐久試験では各種面板の接着力に関する傾向を観察してきましたが、今回は腹壁を保護していく上での重要な指標となる面板の吸水力に着目してみます。
耐久試験実験では各パウチを複数の穴の開いたPVC板(塩ビ板)に貼り付け、その穴から吸収する水分により面板の皮膚保護剤自らの保持力で落下するまでの時間とその様子を観察するものでした。
今回は各面板を直に水に浸して、その面板が時間とともにどの程度水分を吸水するかを観察し、落下試験では見られなかった面板の様子を観察します。
1、面板が1日にさらされる汗の量
面板は腹部に接着しながら1日あたりどの程度の汗にさらされ、吸収しているのでしょうか?
かなり大雑把ではありますがモデルを作って計算してみます。
まず平均成人を160cm、60Kgと想定し、これをモデルとして人体の表面積を求めます。この計算方式にはデュポア (Du Bois)式、新谷式、藤木式などいくつかあるようですが、中間値を示すデュポア式を採用し、”160cm、60Kgの成人の体表面積は1.62㎡”を得ます。
また1日の体全体からの発汗量は、日本救急医学会の資料(https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0515.html)を参考にして、不感蒸泄(ふかんじょうせつ:呼吸や皮膚からの水分蒸発)を900cc、そのうちの1日の汗の総量は600ccとします。
これを体表面積1㎠当たりの汗に換算すると、腹壁に接した面板は、1日に1㎠あたり、約0.037ccの汗にさらされると言えます(0.037cc/㎠/24時間)。
これを使用面板面積に換算したものを表1に示しますが、例えば面板面積が50㎠だとすれば、1日あたり1.9ccの汗が面板との間に発生するすると言えます。
またこの汗の量は、何もしなくても発汗される量ですから、夏場の活動や入浴などの要因で2倍程度までは十分増加する値と見てよいでしょう。
特にストーマ周辺部の皮膚保護剤は汗の他、排泄物からの水分にもさらされますから、より条件は厳しくなります。これらのことから、面板の親水性ポリマーは、最低限でも表1に示した以上の水分、汗を吸収しないと面板上の皮膚保護剤として用を成さないということになります。
2、各種面板の浸水・吸水実験
非常にシンプルなモデリングですが、皮膚保護剤に求められるおよその吸水量が求められましたので、このことを予備知識とした上で実際の実験に取り掛かります。
今回は、溶解タイプ、膨潤タイプを取り混ぜた16種の面板(皮膚保護剤)の吸水力を調査しました。
実験方法としては、パウチから面板部分だけを冒頭写真1のように切り取って、バットに入れて水道水(後半の追加実験では生理食塩水による比較も行ってみました)に浸すだけの簡単な実験で、一定時間ごとに水を吸った面板の重量を測定することにより、その増加重量で面板(皮膚保護剤)の吸水量を測定するものです。
面板だけをパウチ(バッグ)から切り離した理由は、不織布やその他のパーツ部分による水の吸収で誤差を増加させないための対策です。
3、実験経過及び結果
グラフ1に各種面板の吸水量の時間変化を示します。縦軸は各面板自体の初期重量を除いた純粋な吸水(重)量を表します。横軸は、浸水開始から5時間までとします。実際には膨潤タイプの溶けない面板は更に長時間のデータを取得していますが、まずは吸水変化の最も激しかったこの時間帯を観察します。
実験は3種から6種程度を複数回に分けて同時に進めました。最初の実験では、開始から15分後のデータが抜けている面板もありますが、前後の関係、連続性からおよそ想像できるものと考えます。
また2時間、3時間でその後のデータが途切れている試料もありますが、これらは皮膚保護剤が水に溶け始めて、その後の重量測定の意味を為さなくなったため測定を中止したものです。
グラフの下に今回の実験の試料として使用した各社のパウチ名を実験スタートから2時間時点での吸水量の順で表示しています。
浸水からの経過を観察していると、開始から2時間で溶解タイプの大半の皮膚保護剤が溶けだす様子がわかりました。たっぷりと水を含んだこの状態は、実際の使用時には最早腹部に張り付いていられない、寿命後の状態と判断します。
全16種類を一同比較するため、まずは最初の2時間での吸水量を比較します。
グラフから分かるように吸水量のベスト3はいずれもダンサック社でした。
4位となったイーキン社の面板ですが、2時間で吸水量は飽和したとみられその後も水に浸しては置きましてが吸水量の増加は見られませんでした。
5位のホリスター社のModermaFlex SFは、3時間後の21.2ccがmax値でそれ以降は溶解のため測定不能となりました。
表2に実験スタートから2時間の吸水量ランキングを掲載します。
このランキングは面板1㎠当たりの吸水量のランキングです(各面板面積は弊社内で測定したものです)。
面板1枚の吸水量で比較すると、大きな面板と小さな面板で差が生じ(表中の面板面積を個々に見てみると、ダンサック社のノバライフ1フィットは、ホリスター社のModermaFlex FT, FWの面板の3倍ほどの面積がありますから、面板の吸水力の差がその大きさによるものなのかどうか判断に迷うことになります)、本来の皮膚保護剤の吸水力をミスジャッジすることから、単位面積当たりの吸水量としました。
またより具体的に面板の吸水力をイメージするために、表2の最右欄にこの2時間で何日分の汗に匹敵する水量を吸収したかを表示しています。
ランキング1位は圧倒的で、ダンサック社のノバライフTREです。今回の吸水実験での目玉と考えていましたが、周囲に水分が有れば有るだけ吸っていくのではないかと思えるほどの凄まじい吸水力でした。
浸水前の初期重量5.6gの面板が2時間で10倍以上の58.6gになりました。
ダンサック社のカタログによると、この吸収力は親水性ポリマーの代表格CMCに代わり、紙おむつ等に使用されているポリアクリル酸ナトリウムを使用したことによるようです。
このTipsの後半のパートで、この吸水経過状況を写真と共にお見せしますが、どんどん水を吸収し、白く膨張しながら激しく変形し、3時間後にはボロボロとバッキングシートからも離れ落ちてしまいました。何とも忙しい印象の面板で、浸水後わずか2時間で汗換算日数にすると22日分を吸収した計算になります。
面板タイプとしては、従来の溶解、膨潤のいずれとも言い難い新たなタイプです。強力な吸水過程の最期は、溶けることなく、膨潤の果てにボロボロと崩れ落ち、敢えて漢字ふた文字で表現するとしたら崩壊タイプですが、きちんと伝わるように表現するとしたら”超吸水膨潤タイプ”でしょうか。
この溶けずに強力な吸水力を備える事には利点があって、通常の膨潤タイプ以上にストーマ周辺の腹壁保護能力に優れ、パウチの交換時の皮膚保護剤の拭き取り作業も容易になります。これとトレードオフの関係にあると言われている面板の接着力・粘着力に関しては残念ながら前回の耐久試験には含まれていないため、次回実験にエントリーしておきたいと思います。
圧倒的な1位から少し離れて2位にイーキンパウチ、3位にダンサック社のノバライフ1フィットの面板と続きますが、このランキングを眺めているいるとTREを除き溶解タイプがランキング上位に来ていることが分かります。
実はこれ至極当たり前の結果で、少し話がそれますが、そもそもこの面板の皮膚保護剤、カラヤゴムが面板の接着剤として採用されて以降大きな進歩を遂げ、2000年代になってようやく膨潤タイプと呼ばれる面板が登場します。
もともと腹壁に優しいカラヤゴムから更に保形・装着期間を長くするため、水に溶けにくい高分子化合物が配合されるようになり、その過程で接着力・粘着力の増強のために吸水力を敢えて押さえた皮膚保護剤が開発された結果と言うことが出来ます。
さて話を戻しますが、6位のコンケーブの溶解・膨潤タイプの色分けを中間色にした理由は、当初膨潤型と考え、実際の装着レポートでもその装着期間中は皮膚保護剤の中央部、周辺部ともに溶解は観察されませんでしたが(特に周辺部は皮膚保護剤ではないと考えていました)、今回の浸水実験で中央部は膨潤の末、若干の溶解が観察されたことによるものです。
また周辺部も膨潤率は中央部より劣りますが、しっかり膨潤タイプの皮膚保護剤であることが分かりました。
コンケーブ以降のランキングは全て膨潤タイプの面板ですが、溶解タイプが勢いよく吸水していく様に比べ、膨潤タイプの吸水量は、1/2~1/5程でゆっくりと時間をかけて吸水しています。ただし、この2時間で通常使用時の寿命を迎えたとみられる面板は無く、かつ16位のModermaFlex FWでもわずか2時間で1.2日分の汗に匹敵する水を吸収していることから必要十分な吸水力はあると判断して良いと考えます。
この数字の見方を変えて、各面板が1日分の汗に相当する水分量をどの位の時間で吸収できるかをグラフ化してみました(グラフ2)。これを見ていると、最短時間は5分、最長でも99分で吸水でき、まだ余力があることが分かります。
part2では今回の実験を通して個別メーカ毎の面板の変化の様子や新たな発見事項、その他トピックス等を写真と共に見て行きたいと思います。