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汗、水に強いパウチ面板は?-3-

各社面板の吸水力比較 -吸水力Indexについて考える-


“汗、水に強いパウチ面板は?-2-“からの続き

5、面板の吸水量と水温、水質(水道水と生理食塩水の違い)の関係

各面板の浸水直後にそれぞれの表面の粘り具合を0~5段階で記録していました。最も粘着度が高かった面板はダンサック社のノバ1FU×5で5/5評価、4/5評価がイーキンパウチとアルケア社のセルケア1で、センシュラミオやコンケーブ等2層の皮膚保護剤構成になっている面板は中央部と周辺部の粘着度が違っていることも確認できました。

その中でホリスター社のわやぴたFT、ModermaFlexFW、FTが0/5と全く粘りがなく、これで腹部に装着できるのかと不安になったほどで(もちろん装着できます)、製品の有効期限も2024年を確認しました。

実際の吸水量に関してはModermaFlexFW、FTは面板面積も小さいことも有りますが、やわぴたも含め16種中13位、14位、15位と低位に位置しています(同じMoremaFlexシリーズでも溶解型のSFについては十分な吸水量を観察できました)。

4時間、5時間と浸水したままでも吸水量がそれほど増加しないためどの程度で吸水が飽和に達するかを調べるためにそのまま実験を継続しました。
やわぴたFTの吸水遷移

グラフ3にヤワピタFTの吸水時間と吸水量の関係と面板の変化の様子を示します。この面板は結局80時間ほどで吸水量が飽和しましたが、23ccと平均的な膨潤タイプの吸水量に落ち着きました。面板は白く変色し、膨潤は観察できますが、表面は硬く崩れさるような様子は一切ありません。

このホリスターの膨潤タイプの面板群に関して、現在の実験環境を考え、1)水道水ではなく生理食塩水を、2)室温ではなく体温に近い水温に、と実験環境を変えたら吸水量が増えるのではないかと考え、今後の吸水量を評価する基準環境も定めたい思いから、幾つか実験してみました。

やわぴたFTの吸水(水道水、生理食塩水)

5-1、実験1: ModermaFlex FWの吸水特性
まずは水道水と生理食塩水(煮沸後の水道水で0.9%の食塩水に)を室温(24~26℃)と肌温(35~40℃)に分けて4環境で実験をした結果をグラフ4に示します。

水道水と生理食塩水の違いに関しては、実験開始後2時間までは殆どその差が生じていません。5時間を経過した時点で、生理食塩水に浸した面板が、水道水の面板に比べそれぞれ僅か0.4cc多く吸水し、それがパーセンテージでは14%、7%アップという結果になっています。

一方水温に関しては、明らかに肌温の方が吸水量が増え、5時間後の水道水では肌温が200%、生理食塩水では188%の増加という結果になりました。

この実験の結果としては、生理食塩水にすることで10%の上昇が、水温を肌温まで10℃上昇させることにより100%の吸水量の増加があった、といえます。次に上の結果あるいは傾向が全ての面板に対して言える事かどうかの検証実験をしつこく行ってみました。

5-2、実験2: 3種面板の吸水特性
実験は4つのパターンで、1)室温の水道水、2)低温(10~15℃)の生理食塩水、3)室温(24~26℃)の生理食塩水、4)肌温(35~40℃)の生理食塩水で、溶解タイプの面板サンプルとしてノバライフ1FU×5、膨潤タイプのサンプルとしては比較的吸水量の多かったコンケーブとセルケアを試料として選択しました。
その結果を下のグラフ5に示します。

面板3種の吸水量

実験データはそれぞれ4時間までを”分”スケールでプロットしています。各グラフは、比較しやすいように縦軸、横軸を共通にしています(ノバ1は溶解型のため、後半は溶け始めましたが、注意深く扱って何とか吸水量測定を行っています)。

この結果から分かることは、
①どの面板も水道水-室温環境が最も吸水量が多い。
②生理食塩水は、10℃~40℃の範囲においては温度が高くなるほど吸水量は多くなる、となります。
①に関しては、先のModermaFlexFWの実験とは逆の結果が出ています。

実験1と2の水道水の吸水量と生理食塩水の吸水量が逆転している現象に関しては、パラメータと各現象が複雑すぎて、結果をそのまま受け入れるしかありません。他の面板も同様の実験を行った場合はまた違った結果がでる可能性もあります。

唯一水温に関しては、“10~40℃の範囲内において吸水量は水温が高いほど上がる”ことが確認されたと言って良いと思います。

6、吸水力のインデックス(指標)化

今後弊社内における面板の皮膚保護剤の吸水力は、以下のように定めようと思います。

Index 1:面板の吸水力(cc/㎠/1時間)

2時間(*1)の浸水後、その吸水量を測定し、面板1㎠あたりの1時間の吸水量として算出
(浸水用水溶液は、0.9%生理食塩水(*2)、水温は肌温(36±1℃))

*1: 溶解タイプは2時間、膨潤タイプは4時間とも考えましたが、今回の実験で最終的な吸水量を見てみると、膨潤タイプの2時間と4時間の吸水量で時間当たりの吸水量を計算してもそれほど大きな差が無いと判断しました。

4時間も浸した結果となると本来の皮膚保護剤の”フレッシュ”時の特性を見誤る可能性もあり、溶解、膨潤タイプを同じ環境下で比較できるメリットも考えました。

*2: 浸水用水溶液に関しては、実験5-1、5-2から皮膚保護剤によっては水道水では逆傾向を示す可能性もあることから、生理食塩水に統一した方が分かりやすく、より正確性はますのではと考えます。また水温に関しては、水質以上に敏感であることが分かりましたので、可能な限り正確な温度での測定を心掛けます。

Index 2:吸水力Index(”単位面積あたりの皮膚表面”からの汗吸収倍率)

● 面倒な表現を使いましたが、1、の吸水力を1時間当たりの発汗量(今回の例で言えば0.037cc÷24時間)で割った値です。

7、吸水力Index(Index of water absorption)について

各メーカのカタログ上では、パウチの特徴、特性を示すために皮膚保護剤の成分、特性を説明し、それがどれほど画期的であるかをアピールすることで訴求力を高めようとされていると思います。

しかしながら、それらの内容でユーザが、現在自分が使用しているパウチとどの程度違うものかを直感的に判断、把握する事はなかなか難しい問題です。例えば面板で重要な評価、選定基準となる①寿命、②粘着度、③皮膚への追従性、④吸水力等がメーカ間で一定基準で数値化(絶対値ではなくても相対値でも)できると、自身のパウチとの比較が可能と考えます。

今回は、比較的簡単な吸水力をインデックス化(指標化)してみます。
実験環境基準例
1、浸水水溶液:0.9%生理食塩水
2、水温:36±1℃
3、浸水時間:2時間
4、試料数:5(製造後1年以内)

6、で述べた吸水力Indexを今回の実験結果を使って表してみます(表3)。
この数字が示すものは、”平均的発汗量(暫定値)に対し、何倍の汗を吸収できる能力を持つ皮膚保護剤か”という事です。

absorption

右欄の吸水力Indexを見てみると、面板と言っても吸水力Indexでは15~269とかなり広範囲に幅をもって分散していることが分かります。溶解タイプの数値は総じて膨潤タイプよりも大きく、測定誤差以上に特性が示されるのではと考えます。

Indexの示す絶対値が重要ではなく、自分が使用しているパウチ(面板)との比較においてどうか、という判断ができることが重要となってきます。夏場にもっと汗を吸収してくれるパウチ(面板)を探す場合、何を選べばよいかの一つの具体的指標になってくれればと考えます。

ちなみに、このデータは上で述べた実験環境に照らし合わせると、
1、水質:水道水(東京都水道局 金町・三郷・朝霞・三園・東村山系浄水場)
2、水温:25℃±3℃
3、浸水時間:2時間(測定時間誤差:0~5分)
4、試料数:1~3、となります。

8、実験を終えて

面板を切り取ってただ水に漬けておいただけの実験でしたが、様々な発見がありました。元気が良い面板におとなしい面板、綺麗な花が咲いたような面板もあり、廃棄することが躊躇されるようなものもありました。皮膚保護剤が剥がれバッキングシートだけになったものは乾燥して保管してあります。今後皮膚保護剤だけの重量を計測したり、バッキングシートそのものの調査等に活用できるのではと考えています。

皮膚保護剤はその組成を含め非常に複雑で、私どもが化学的分析に挑戦しても歯が立たないことは実験前から分かっていた事なので、あくまでも取得したデータを見ながらどう判断していくかに専念しました。吸水力と面板の接着(剥離)寿命との関係が探れないかとも考えていましたが、皮膚保護剤に対する水の吸着、収着等を考えながら個別に対応する必要がありそうで、今後の大きな課題として残っています。

最後の吸水力Indexに関してはメーカの方々にも相談してみたいと思っています。大がかりな測定環境も必要なく、各メーカを通してパウチカタログ上に吸水力を示す指標があれば使用者にとっては自分のパウチとの比較において意味ある情報だと思います。

繰り返しになりますが、将来的には、測定環境基準をメーカ間で定めた上で、前に述べた①寿命、②粘着度、③皮膚への追従性、④吸水力などが、数値で比較できるようになってくると信じています。

以上

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