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8.82020
ストーマパウチ用剥離剤(リムーバ―)の全製品比較実験-2
““パウチ剥離剤(リムーバ―)の全製品比較-1-“からかなり時間がたってしまいましたが、剥離剤の剥離力をどのように客観的に評価できるか様々な予備実験を繰り返していました。少し気取った言い方をすると、9種類の剥離剤のパフォーマンスデータを取得するためのダイナミックレンジを探るために時間を要しました。
結果から言うと様々なタイプの面板を剥がす過程で、共通する実験環境に揃えることが難しく、試料によって変えざるを得ませんでした(4、実験環境に関する補足事項参照)。
先の剥離剤(リムーバ―)の全製品比較-1-での予備実験を通して、今回は各社の剥離剤の総合剥離力ランキングをお伝えします。
1、剥離剤の総合剥離力とは
今回の製品比較にあたり、意味のある実験結果とは何かを考えました。
パウチの剥離剤に求めることとは一言でいえば”簡単に剥がれる事”と言って良いと思います。
「簡単に剥がれること=少ない量で短時間に剥がれること」と定義し、これを剥離剤のパフォーマンスとして評価することとします。各剥離剤のコストパフォーマンスは別途評価します。
パウチ剥離剤の総合剥離力は、①皮膚保護剤からの剥離力と②剥離のための皮膚保護剤への浸透力の総合力
①皮膚保護剤からの剥離力: 各試料をそれぞれ剥離するために要する剥離剤の使用量で評価
②剥離のための皮膚保護剤への浸透力: 試料を剥離するために要した時間で評価
パウチを剥離する際に同じ2mlの剥離剤を要するといっても、1分で剥離するものと、10分を要するものでは剥離力が違うと評価すべきと考えました。
2、実験方法
① 新品のパウチの面板から一定の大きさの試料を採取し、垂直に立てかけたポリプロピレン板(以下「PP板」)に貼り付ける。
② 面板は膨潤タイプとしてアルケア社のセルケア1TD、溶解タイプはイーキンパウチを使用。それぞれ面板がほぼ全面にわたって一様なことが選択理由。
③ 垂直状態に貼り付けた試料の上端5mmをクリップで挟み、クリップからセルケア試料用には20g、イーキンパウチ試料用には50gの分銅をぶら下げる。(4、注1参照)
④ 面板試料の剥離の方法は、写真1に示すように、溶解タイプは90度剥離法(試料を垂直方向に剥がす)、膨潤タイプは180度剥離法(試料を180度反対方向=下に向けて剥がす)で行う。(4、注2参照)
⑤ 貼り付けた各面板試料の上部先端から各剥離剤を30秒ごとにスポイトで3滴(0.23ml)滴下。30秒間の浸透期間をおいて更に3滴滴下を繰り返す。これを面板が剥がれ落ちるまで繰り返し、落ちた時間(及び総滴下量)を測定(4、注3参照)。
3、剥離剤の総合剥離力ランキング
●溶解タイプの面板(試料:イーキンパウチ)
試料サイズ:縦30mm×横20mm(4、注4参照)。面板周辺部が上部なるように貼り付け、クリップから50gの分銅をぶら下げた状態(90度剥離法)で実験。
右上のグラフは、縦軸に浸透力(剥離時間)、横軸に剥離力(落下までに滴下した剥離剤の量)を各剥離剤ごとにプロットしたグラフで、相対比較をするために9種類のデータの平均値を求め、その平均値(100%)に比べてのパフォーマンスを示します。グラフでは右上方向に向かうほど剥離剤の総合剥離力が高く、左下に行くほど低いと見ます。
今回の溶解タイプの面板を使用した実験では、落下までに要した剥離剤の量が0.75mlであったものが5種類もあり、その剥離時間のわずかな差で1位:コンバテック社のニルタック、2位:ホリスター、3位:イーキン、4位:Trio、5位:アルケアという結果になりました。
これら5種は落下時間の差においても20秒以内で、ほぼ同等のパフォーマンスを見せたと言って良いと思います。3Mはほぼ平均値、S&Nとニチバンは他の面板専用剥離剤よりは劣るという結果となりました。剥離までの時間に関しては、トップのコンバテックとS&Nでは8倍以上の差が出ています。
●膨潤タイプの面板(試料:アルケア社セルケア1)
試料サイズ:縦40mm×横20mm(4、注4参照)。面板周辺部が上部になるように貼り付け、クリップから20gの分銅を下にそのままぶら下げた状態(180度剥離法)で実験。
膨潤タイプの面板に対する剥離力ランキングは、溶解タイプより広く分散している様子が分かります。
1位はホリスター社のアダプトで、同じ滴下量で僅差でコンバテック社が2位となりました。3Mはまたしても平均値に近く、S&Nとニチバンも溶解タイプの総合剥離力と同様な結果となりました。
S&N社のリムーブに関しては他社の剥離剤と少し反応が違い、剥離剤が試料に浸み込むまでに数分間のラグタイムがあり、浸透がある程度進むまでは全く剥離が認められず、一度剥離が始まると徐々に剥がれていく、という様子でした。
4、実験環境の関する補足事項
注1: 当初は、全く同条件下における実験を理想と考えましたが、貼り付ける板(今回はPP板)と新品の面板の相性(特に膨潤タイプと溶解タイプでは初期粘着力に差がある)により、かける負荷を変えざるを得ない結果となった。
注2: 最初に膨潤タイプを試料として180度剥離法で実験を行いましたが、溶解タイプの面板ではどれも真下に分銅をぶら下げた状態(180度剥離法)では、剥離剤を滴下すると、皮膚保護剤とPP板の間に剥離剤が浸透するよりも皮膚保護剤を溶解し、面板のバックフィルムと皮膚保護剤を剥がしてしまったため、急遽90度剥離法に切り替えたもの。
注3:この場合剥離剤は全て皮膚保護剤に吸収されるわけではなく、あふれ出たものは試料の中や両脇からPP板の表面を伝って下に落ちていきます。
予備実験を通して、30秒おきに3滴(0.23ml)というパラメータを導き出したわけですが、時間の長くかかる試料は、零れ落ちる量が相対的に増え、実際の必要量より多めに出てくる傾向にあります。
注4:面板からストーマ孔を中心に上下左右から幅20mmの試料を切り出す。イーキンパウチの面板からは長さ30mmがmax。セルケアは40mmがmax。1枚のパウチ面板から試料4枚がそれぞれ切り出せる。
5、実験を終えて
1、総合的にはホリスター社、コンバテック社がそれぞれの面板タイプで1位、2位ということで総合剥離力が高いと言って良いと思います。
2、今回の比較実験は、あくまでもPP板に新品のパウチを使用した比較ですから、剥離剤ごとの相対比は実感以上に大きく出ていると考えます。実際の腹部への装着の際には水分、塩分により粘着力の衰えた面板を対象にしますから、それぞれの剥離パフォーマンスは向上(前回の予備実験では、腹部からの剥離の方がPP板に比べ3~5倍容易)し、各剥離剤の差も縮小するものと考えます。
また今回の実験ではそれぞれの試料の貼り付け方のバラツキ、時間の計測、滴下量においても誤差を含むため、試料を別の面板で行った際の再実験では上位にランキングされた製品で順位が変わることも有りうると考えます。ただし傾向として今回の結果(順位等)が劇的に変わるものではないと思っています。
3、ニチバンの”サージカルのり落とし”に関しては、パウチの剥離剤としてよりも、剥離後の腹部の拭きとり用の認識でいましたが(失礼しました)、パウチ剥離剤としても使用可能であることが分かりました。
剥離剤比較はまだ継続いたします。
次回は剥離剤のコストに関して着目します。この実験を通して剥離あたりのコストパフォーマンスに関して考察してみます。
剥離力とはまた違ったランキング結果が出ています。
つづく
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