Tips
11.62017
ストーマパウチ面板(皮膚保護剤)のちょっと深い話
【新製品のお知らせ:多目的マスキングベルトの販売を開始しました!】
ストーマパウチの寿命を決定づける面板とはどんな役割で、その成分はどんなもので構成されているのでしょうか。
1、面板の役割とは
まずパウチの面板(皮膚保護剤)の役割はおおよそ以下の2つと言って良いと思います。
① 腹壁とパウチ装具全体をしっかりと、出来る限り長期にわたり固定させる
② その間ストーマ周辺及び腹壁の保護をする
パウチを期間中しっかりと漏れなくお腹に貼り付けておくこと、その接着面及びストーマ周辺を肌荒れすることなく守っていく事と言って良いでしょう。
まず①を満たすためには面板の腹壁への接着力・粘着力が求められ、更に接着面に発生する汗を吸収しながら(吸水性)その接着力を保ち且つ保形(凝集性)し続ける必要があります。
次に②のストーマ周辺及び腹壁の保護とは、
⑴ストーマ周辺部の皮膚を排泄物、分泌物から保護するための保護機能
⑵pH緩衝作用(弱アルカリ性の排泄物から皮膚を守り、皮膚を健康な状態(弱酸性)に保つ作用)
⑶静菌作用(細菌繁殖を抑える作用)
⑷腹壁を健康な状態に保つための保湿作用、等を意味し、
⑴の皮膚保護のための対策としては、皮膚保護剤が吸水・膨張することにより直接排泄物、分泌物が皮膚へ付着することをブロックしてくれることで実現されます。
2、親水性ポリマーと疎水性ポリマー
面板の皮膚保護剤は大きく分けて、ポリマーブレンド系と呼ばれる、①親水性ポリマーと②疎水性ポリマーという2種類の高分子化合物で組成されています。
親水性ポリマーとは水との親和性の高い高分子化合物、疎水性ポリマーとはその逆で、水に溶けにくい高分子化合物です。
どうしてのこの反対の性質を持つ素材が同時に必要となるのでしょうか?
それは、面板が常に排泄物、体内からの分泌物、汗、更には外部要因としてパウチを装着した状態での入浴等による水分の侵入という過酷な条件下にさらされていることにあります。
親水性ポリマーだけでは長期間水分を吸収し続けると最後はコロイド状に変化し、個体としての体を保つことが出来ません。この状態になると最早お腹に張り付くことが出来ず、短時間でパウチ装具としての寿命を迎えてしまうことになります。
これらの水分を受けとめながら、且つ腹壁の保護と、面板としての形を保つ事、その面板がきちんとお腹に長期にわたって接着することを実現するために疎水性ポリマーも必要となります。
特に図に示した肌に密着する部分、ストーマ周辺部は分泌物や汗を吸収するために親水性ポリマーが支配すべきエリアとなります。
逆に面板の上部表面や側面はバッキングシートとともに外部からの水分を防ぎたい訳ですから防水=疎水性ポリマーに支配してほしいエリアとなります。
皮膚保護剤に使用されている親水性ポリマーの代表格は、カルボキシメチルセルロース(CMC)で、吸水性、粘性が大きな特徴で非常に多くの皮膚保護剤に使用されています。
これにペクチンやゼラチン等を添加することにより、更に粘性を増しながらゲル化、保形効果を期待するものです。最近ではCMCに代わり、紙オムツなどの吸水体であるポリアクリル酸ナトリウムなどを使用した面板も出てきています。
疎水性ポリマーの代表格はポリイソブチレン(PIB)という高分子化合物で、CMCを親水性ポリマーの横綱とするならば、疎水性ポリマーの横綱はPIBと言って良いでしょう。CMCもPIBも極めて安定した物質で人体に無害であることがその理由と言われています。
PIBの1番の役割は、皮膚保護剤としての基材としての役割で、水に溶けることなく長期間に渡って面板としての体を保つことにあります。これに1),スチレン・イソプレン・ブロック・コポリマー(SIS)や、2),エチレン・酢酸ビニル・コポリマー(EVA)を配合することにより、更に弾性、伸縮性、粘性を増強し面板の長寿命化を図るというものです。
1)の代表的な面板としてはビー・ブラウン社のフレキシマアクティブ、2)ではコロプラスト社のセンシュラミオ等があります。またPIBの組成も様々で、ダンサック社のノバライフTREの様に、継続的粘着力は高分子量PIBで実現し、初期タック特性(接着時における瞬間粘着特性)は低分子量のPIBでと、2種類のPIBを配合している面板も存在します。
3、pH緩衝作用とは
pH(ペーハー)とはご存じの方も多いとは思いますが、水溶液の酸性・アルカリ性の度合いを示す単位です。pH0~14までの値で示され、中間のpH7が中性で、それ以下(最大0)が酸性、それ以上(最大14)がアルカリ性を示し、数字が両側へ寄るほど強酸性、強アルカリ性となります。
ストーマからの排出液はpH7~8の弱アルカリ性で、すい臓からのたんぱく質を分解するトリプシンや、脂質を分解するリパーゼなどの消化酵素も同時に排出されるため、この排出液に直に長時間浸されると当然皮膚や脂質も溶けてしまいます。これを防ぐために吸水性ポリマーにより、ストーマ周辺を覆う必要があります。
更に皮膚はpH4~6の弱酸性で健康に保たれ、皮膚細胞の再生及び抗菌作用も活性化するといわれています。このためにペクチンや最近ではカルボマー(共に酸性)などがアルカリ性のCMCに配合され、ストーマ周辺の弱酸性化を実現するものです。
これがpH緩衝作用で、更にこのペクチンなどの配合が同時に粘度をも向上させ、保形効果にも効果を発揮します。ちなみに親水性ポリマーに配合されるゼラチンは、わずかなトリプシンなどのタンパク質分解酵素によっても容易に分解され、粘度が低下し溶解してしまいます。
4、面板上の皮膚保護剤塗布パターン
皮膚保護剤の組成、配合に関してメーカ毎に様々な工夫がなされていますが、面板の種々の役割、機能を実現するために、異なる化合物ごとに様々なパターンで基材となるバッキングシート上に塗布されています。
それらのパターンを下の写真1で見てみましょう。
写真1-1:同じ保護剤を一様に面板基材上に塗布したパターン(アルケア社セルケア1・C)
写真1-2:面板中央部と周辺部で組成を変えたもの(コロプラスト社センシュラミオ1)
(2020年9月追記)● 弊社内の面板吸水実験において、センシュラミオ1の面板は、中央部と周辺部で組成を変えたタイプではなく、写真1-3と同様な積層タイプであることが判明しました。面板全体に周辺部に見える皮膚保護剤が塗布されており、その上に中央部分のみ別組成の保護剤が積層されています。
写真1-3:面板を上層、下層に分け、組成を変えた保護剤を積層するハイブリッドタイプ(ダンサック社ノバライフTRE)
写真1-4:同一面上に一定パターン(写真では渦巻き状)で別組成の保護剤を混入させるタイプ(コロプラスト社アシュラ)
そのほか面板そのもの比較にはなりませんが、センシュラミオ1の”中央部は皮膚保護機能を重視し、周辺部は伸縮、接着性を重視する”というコンセプトに合致するという意味では、面板周辺に別素材で保護テープを付属させているパウチも期待する効果は一緒といえます(写真1-5:コンバテック社エスティーム インビジクローズ ドレインパウチ、写真1-6:ホリスター社モデルマフレックスFTロックンロール)。
このケースでは面板(皮膚保護剤)そのものは、肌へのフィット感や柔軟性等を考慮する必要が無く、ストーマ周辺の皮膚の保護にフォーカスすれば良いわけですから、それぞれの役割分担がより明確になると言えます。ただし保護テープでは臭い漏れ等には対応できませんので、あくまでも補助接着機能とみるべきと考えます。
これらの皮膚保護剤及びその塗布パターンは、メーカ、およびパウチごとにその効用を考えて工夫されています。装着期間を長くするためのものや、腹壁に密着しやすいように柔軟にするための工夫、またストーマ周辺部は吸水力や膨潤度を高め、その他の部分は防水力を高めたりと、各種面板により狙いどころが異なります。
またあまり接着力を高くすると痛んだ皮膚には刺激となるために敢えて低刺激、短寿命の面板用途もあります。
それでは自分に合った面板とは、という肝心なお題です。これはその時々の肌の状態、元々の肌の強さ、アレルギーの有無、腹壁の皺やくぼみ等の形状要因に応じてその時々に選択されるべきです、としか言えません。上に述べた事を豆知識程度にお持ちになりながら、担当の医師、看護師さんにご相談されたら如何でしょうか。
国内で入手可能なパウチではおよそ40種類弱の面板(パウチの種類ではありません。面板の種類です)が存在します。自分自身に合う面板を探すためには、まずは積極的に試着してみることが一番だと思います。
以上
次のTipsでは“面板の溶解タイプと膨潤タイプの違い”に関して、どう違うのか、膨潤タイプの最後ってどうなるんだろうという素朴な疑問に対しての実験です。
Tipsの内容に関する件でご意見ください。より良いレポート作りの参考にさせていただきます。
PRODUCTS
オストメイト/お尻の痛みにお悩みの方々に向けた製品です
1,多目的マスキングベルト
”オストメイトの方々の入浴、バルーニング、防音、防臭など、日頃の様々な悩みを解消するために生まれた製品です”
ストーマ造設以降、それ迄とは勝手が違い様々な悩みが発生しますが、まずはオストメイトの皆さんが温泉や公衆浴場にパウチを気にせず皆と一緒に入浴出来ないか、から着想した製品です。そのために極力目立たないマスキングベルトのデザインにこだわり、色、サイズ、素材を選んでいます。
更に製品化を検討する中で、オストメイトの最大の関心事の一つのバルーニング防止や、パウチの前面をフィルターで覆うことで、おなら音の遮音、ガス抜きフィルターからの臭い漏れ対策等、多目的にご使用いただける製品です。
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2,パウチホルダー
”万が一、外出先でパウチが剥(は)がれてしまったらどうしよう”
オストメイトにとってのパウチの装着は、その交換直後でさえもそんな不安が付きまとうものです。ましてや漏れが発生してしまった際には、居ても立ってもいられない緊急事態となってしまいます。
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他メーカの補助的ホルダーとは異なり、伸縮ベルトによる等分の力が適度にストーマ全周を押さえ込み、ヘルニア防止やお腹の出っ張り補正に関しても機能してくれます。
各社パウチに応じ4タイプをご用意しております。製品詳細ページへ➡
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3,うつ伏せクッション
“うつ伏せ姿勢はストーマやパウチへの圧迫が気になり、ためらいがち”
「腹臥位(ふくがい)療法」という、うつ伏せ姿勢による療法をご存じでしょうか?
この療法は血流や呼吸器機能の改善に役立ち、脳梗塞やリハビリにも使用されるものです。毎日一定時間うつ伏せ姿勢をとることで様々な効果が期待され、精神機能や呼吸機能、ネコ背の改善にも効果的です。
特にネコ背は肩こりや腰痛の原因となりますが、うつ伏せ姿勢は背骨の伸びを促し、ネコ背を解消するための簡単な方法となります。ストーマ造設後、うつ伏せ姿勢を避けることで様々なストレスが無意識のうちに溜まっています。本製品はうつ伏せ姿勢を日常生活の中に取り戻し、日々の体調管理に役立つものです
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