Tips
8.292020
パウチの面板用剥離剤の全製品比較-3- コストパフォーマンス比較他
剥離剤のコストパフォーマンス・ランキング&総合ランキング&各製品レビュー
前回の“Tips17-2”では、剥離力という観点からランキングをお伝えしました、今回は実験を通して溶解タイプ、膨潤タイプのそれぞれの面板を剥がすために費やした剥離剤の量と、Tips17の表1の右端データ”1mlあたりの各社剥離剤のコスト”を掛け合わせて、面板を剥離するためのコストパフォーマンス(以下CP)比較を行ってみます。
それぞれの剥離剤を眺めていると、スプレータイプと滴下タイプでは器の製造原価が違うことは明らかですが、このようなメーカ側の事情は無視して、ユーザーの入手価格に対してパフォーマンスがどうかという観点で話を進めます。予想では滴下タイプが優位と考えましたが結果は以下ご覧ください。
1、剥離費用ランキング
先の実験の剥離力から視点を変えて、今回の2つの試料(溶解タイプ面板、膨潤タイプ面板)を剥離するために費やした剥離剤の費用に関して考察してみます。ここではどんなに剥がれ落ちる時間がかかっても費用が少ない方がランキングの上位に位置します。
表1には2つの試料の平均剥離費用順にランキングを作成しています。
それぞれの剥離剤について、1ml当たりの単価、溶解タイプの試料の剥離費用、膨潤タイプの試料の剥離費用とその平均費用を表にしています。単価に関しては、ニチバンが群を抜いて安く、1mlあたり10円、次いでS&Nの15円と続きます。この費用ランキングでは、ニチバンの単価10円/mlが効いて、剥離力でトップのホリスター、コンバテックを押さえて1位(平均剥離費用:30円)を得ました。剥離には多少時間がかかり、使用量は多いものの、CPが良い製品と言えます。一方2位のホリスター社も33円と僅差で、こちらは剥離力の高さゆえ、少量で面板を剥離したことによりコストが抑えられています。
次にこの実験で得た各平均剥離費用と、実際のパウチ使用時の費用への換算を考えてみます。
① 実パウチの面積は実験で使用した試料の約15倍
② PP板実験より実際の腹部では5倍のパフォーマンスの向上
③ 実使用量は実験の滴下量の半分(実験では剥離剤の半分は試料からPP板を伝って下に零れ落ちたことを想定)
この想定下で”実パウチ剥離費用=実験剥離費用×15÷5÷2=実験剥離費用データ×1.5”となり、表の費用の1.5倍程度が実際のパウチ面板の剥離の際のコストではないかと考えます。
下のグラフ1は、表1のデータをグラフ化してものです。
剥離力とCPの評価が揃ったところで、最後はこの二つのランキングデータを総合ポイントで表してみます。
最終結果【剥離剤の総合ランキングby Kinokiita Japan】
本実験の最終結果としての総合ランキングです。
表2-1は純粋に剥離力の総合評価です。溶解型面板と膨潤型面板の剥離力(滴下量)と浸透力(剥離時間)のそれぞれの相対%の平均値の和が値になっています。
表2-2は、総合剥離力スコアに平均コストに対する各剥離剤の相対値をスコアとして足した値でランキング付けしています。
このスコアリング方法では、総合剥離力がCPスコアの2倍で重み付けされることになりますが、剥離剤の評価はやはり剥離力がメインとなるべき、との思いからです。ちなみに重み付けを1:1にするとCP順位で1位だったニチバンが2ランクアップし、Trioとニチバンの順位が逆転し、その他は一緒の結果となります。
結果を見てみますと、総合剥離力ランキングも総合ランキングもほぼ似たような順位となっていて、唯一3Mとニチバンの順位が変わっています。総合1位はホリスター社のアダプト、僅差でコンバテック社のニルタック、次いで3位にコロプラスト社のブラバという結果となりました。実際に実験を行っている際には、”S&Nのリムーブ”と”ニチバンのサージカルのり落とし”以外の面板専用剥離剤はその剥離力に関しては大きな差を実感することがありませんでした。前述した2製品は、一般剥離剤用途も視野に置いているため、成分に違いがあることがその手触りから感じとれます。またスプレータイプの5製品に関しては、容器の大きさも極めて近く、いずれかの会社はOEM製品ではと思っていましたが、実験を通して結果を見ると中身に違いがありそうです。
今後はこのランキングが実使用時の使用感と合致するものかどうか、実際の腹部使用などの装着実験も交え考えて行きたいと思っています。
実験を終えて
様々な試行錯誤の末、取りあえず数字に基づく1つの結果を出してみましたが、このようなデータが市場に存在しないため、これが果たして客観的な結果としてお見せして良いかどうか迷いながらもまずは自社サイトで見ていただきます。ひょっとすると方向違いの評価をしている可能性もありますが、使用者にとって意味のあるデータの抽出を心掛けました。今後同様な剥離剤比較を客観的に行う方があれば、本実験を一つの予備実験として参考にしていただければ幸いです。またメーカの方々のご意見をいただければ今後の参考にしていきたいと思います。
2、各製品レビュー
最後に今回の剥離剤全製品比較1~3を通してのそれぞれのランキング、メーカからのアピールポイント、今回の実験使用に関しての所感を一口メモという形でまとめます。
順番は総合ランキング順です。
【総合ランキング】:1位 ホリスター社 アダプト
【剥離力ランキング】:1位
【コストパフォーマンスランキング】:2位
(剥離液単価(ml)ランキング):6位
【メーカからのアピールポイント】:
● テープ類の剥離に効果的でのり残りの心配なし
● 肌に低刺激のノンアルコール剥離剤
● 剥離後も肌はサラサラ (シリコーン素材使用)
● あらゆる角度からスプレー可能
【使用感・一口メモ】:
実験中、セルケアの厚めの面板を短時間で曲げながら剥がし切る様子に、最も強力?と実感する場面があった。剥離力のみならず面板への浸透力も強そう。スプレータイプで唯一微粒子のミスト状態で腹部へのやさしい感触は印象的。噴射角は中程度。
【総合ランキング】:2位 コンバテック社 ニルタック
【剥離力ランキング】:2位
【コストパフォーマンスランキング】:3位
(剥離液単価(ml)ランキング):8位
【メーカからのアピールポイント】:
● ノンアルコール・ノンオイル、100%シリコン成分の剥離剤
● 皮膚に残ったオイル除去の必要なし
● 乾燥後被覆材や装具を添付しても粘着剤に影響を及ぼさない
● 無臭タイプ
● 上下逆さにしても噴射可能
【使用感・一口メモ】:
吹きかけた際、若干ひんやり感がある。無臭タイプとあるが微香性か?ほのかに良い匂いがする。他のスプレーと比べて噴射角は一番狭く、ピンポイントで狙った個所に吹きかけられ経済的か(噴射量にもよるためあくまで推測)。これのみで剥離作業を終え、次のパウチを装着しようとすると、かなりの消費量が必要となり経済的でない。実際は剥離剤と洗浄液は分けて使用する方が現実的だと考える。
【総合ランキング】:3位 コロプラスト社 ブラバ
【剥離力ランキング】:3位
【コストパフォーマンスランキング】:6位
(剥離液単価(ml)ランキング):9位
【メーカからのアピールポイント】:
● 低刺激で皮膚に優しい
● ノンアルコール・ノンオイル
● 無臭タイプ
【使用感・一口メモ】:噴射角広め。今回の予備実験用として多用。全剥離剤の中で剥離液やスプレーの使用感においてもいわゆる平均的・安定的なパフォーマンスを示した。
【総合ランキング】:4位 イーキン社 リリース
【剥離力ランキング】:4位
【コストパフォーマンスランキング】:5位
(剥離液単価(ml)ランキング):7位
【メーカからのアピールポイント】:
● 粘着剤を痛みを伴わずに除去
● 最新のシリコンテクノロジーで皮膚に刺激を与えない
● 爽やかなスペアミントの香り
● ビタミンE配合で皮膚の状態を整え、潤いを保つ
● 逆さにしても噴射可能
【使用感・一口メモ】:
女性的な美しいパッケージデザインで今回の剥離剤の中で唯一香りつき。使用中、使用後は爽やかな良い香りが漂うがユーザによっては多少強めと感じるユーザがいるか?吹き付けた際の肌はスペアミントの清涼感なのか、あるいは若干のヒリヒリ感のようなものがある。スプレーの噴射角はかなり広めで、噴射口からの吹き出し角度がかなり上めに設定(?)されていて吹き付けの際に狙った個所から外れて戸惑うことがある。
【総合ランキング】:5位 アルケア社 スムーズリムーバー
【剥離力ランキング】:5位
【コストパフォーマンスランキング】:4位
(剥離液単価(ml)ランキング):4位
【メーカからのアピールポイント】:
● 非アルコール性剥離剤
● 容器の先端が細長いノズル形状で、ストーマ装具と皮膚の狭い隙間にも差し込みやすい
● 半透明のボトル採用により、剥離液の動きが目視確認可
【使用感・一口メモ】:
本製品と3M社のキャビロンが唯一の滴下タイプのボトル。先端のノズル形状が特徴的で、実際の面板の剥離作業の際にスプレータイプは皮膚と面板を剥がしながら吹きかけるため、指先に剥離液がどうしても吹き掛かってしまう。この形状は、スポイト状のノズルを皮膚と面板の隙間に入れ込むことが出来るため、実は実用的。また半透明のボトルは、ニチバンのサージカルのり落としと2種だけだが、剥離剤の残量が分かって便利。スプレータイプの欠点は残量が分かり難い事である。
【総合ランキング】:6位 TrioHC社 エリート
【剥離力ランキング】:6位
【コストパフォーマンスランキング】:8位
(剥離液単価(ml)ランキング):7位
【メーカからのアピールポイント】:
● 皮膚にやさしいシリコーンが主成分のノンアルコール・ノンオイルの剥離剤
● 従来のガスを使用しておらず、スプレー時の不快な冷たさを低減
● どの角度からも安定してスプレー可能
● 乾きが早く、皮膚に残らない
【使用感・一口メモ】:
日本国内では村中医療器による取り扱いだがオリジナルの製品はTrio Healthcare社(英国)の製品。噴射角は広く、噴射量も今回のスプレータイプの中では最も多い。
【総合ランキング】:7位 ニチバン社 サージカルのり落とし
【剥離力ランキング】:8位
【コストパフォーマンスランキング】:1位
(剥離液単価(ml)ランキング):1位
【メーカからのアピールポイント】
● アルコールフリー・無臭
● 肌に優しく従来のベンジンの不満を解消
● 天然保湿(エモリエント)成分「マカデミアナッツ油」を配合
【使用感・一口メモ】:
面板に特化しない一般剥離剤。今回の試料群の中で唯一オイリーな感触。先にも述べたがパウチの剥離剤としてよりも、剥離後の腹部の拭きとり用の認識でいたがパウチ剥離剤としても十分使用可能。ただし面板専用剥離剤に比べ剥離には時間を要す。皮膚保護剤によっては苦手なものもあり(eg.センシュラの中央部は問題ないが周辺部は苦手だったりした)相性がありそう。
【総合ランキング】:8位 3M社 キャビロン
【剥離力ランキング】:7位
【コストパフォーマンスランキング】:7位
(剥離液単価(ml)ランキング):3位
【メーカからのアピールポイント】
● 粘着剤を皮膚から浮かせて”パラっと”素早く剥がす
● べたつきが少なく、“サラっと”した使用感
【使用感・一口メモ】:
アルケア社のスムーズリムーバーと同様、先端のノズルを皮膚と面板の隙間に入れて、剥離液を滴下することが出来、実用的。小さいサイズのキャビロンは外部への携帯に便利なサイズ。
【総合ランキング】:9位 スミス・アンド・ネフュー社 リムーブ
【剥離力ランキング】:9位
【コストパフォーマンスランキング】:9位
(剥離液単価(ml)ランキング):2位
【メーカからのアピールポイント】
● ストーマ用装具やテープ等の粘着製品の除去用剥離剤
● ハイドロコロイド、アクリル系等の粘着剤をやさしく剥がす。
● 皮膚に残った粘着剤のべとつきも除去
【使用感・一口メモ】:
面板専用剥離剤ではなく、他の粘着製品の除去用剥離剤としても使用可。容量は最大の236ml。中央部を押すとノズルが飛び出す構造で最初は使用方法が分からなかった。本構造の中央部押し込み部分が小さすぎて押しにくい。欧米のユーザは更に苦労するのではないだろうか。使用感は若干オイリーで、他の剥離剤に比べ浸透力が弱いように感じる(特にパウチの周辺部への浸透力に関して、最初の滴下からはがれ始めるまでラグタイムがあり、しばらく(10秒~20秒ほど)時間が必要。周辺部や底部ではスポイト等で差し込むようにして滴下する必要もあり、他の剥離剤に比べ、剥離作業に時間を要した。
以上
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