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9.212020
汗、水に強いパウチ面板は? -2-
各社面板の吸水力比較 – 写真で見る各社面板の吸水力 –
“汗、水に強いパウチ面板は?-1-“からの続き
4、写真でみる各社面板の変化
面板の吸水力のお話の際には面倒くさい話もあるのですが、それらは後半に回し、まずは今回の実験で面板に思う存分水を吸わせてみた際の様々な様子を写真で見てみたいと思います。以下メーカ別(アルファベット順)に紹介していきます。
(part1から読む)
4-1. Alcare(アルケア社)
試料:セルケア1TD
浸水後30分で周辺部の捲れ上がりが始まり、2時間後には既に写真A1-1の形のまま、厚みが徐々に増していき、3時間後3mm、6時間後5mm、40時間後10mmと水を吸って厚くなるだけで、他はあまり大きな変化もなく全く溶けることもありません。
8時間後に23ccの水を含み、そろそろ飽和状態かと思っていましたが、その後も吸水し続け、40時間後に51.5ccでようやく飽和となりました。67時間後に耐久試験同様表面に青かびが発生して廃棄して終了。
セルケアの面板は、装着時に何度か上部が捲れ上がる現象が見られましたが、これは入浴/シャワーや汗等の吸水により皮膚保護剤が膨張し、しかもバッキングシートに比べ皮膚保護剤の膨張率が大きいため、外側に巻き上がる現象だということがわかりました。
試料:フレキシマ アクティブ及びフレキシマ
いずれも膨潤タイプで、18時間までは21.8ccと22.6ccとほぼ同様な吸水量を見せていましたが、40時間後には40ccと23.5ccと大きく差が生じ、フレキシマの方は若干溶解が見られました。
アクティブの方はSIS配合の極めて薄く柔らかい面板で浸水後すぐに捲れ上がり現象が発生します。一方外見はよく似たフレキシマは薄いにも関わらず捲れ上がりません。浸水後しばらくたったフレキシマとアクティブを手で触ってみると、フレキシマの面板表面(皮膚保護剤)は、弾力性がアクティブに比べ劣り、このことで巻き上がりが抑制されているのかもしれません。
更に面板の裏を見てみるとバッキングシート側に不織布が張り付けてあります。肌ざわりを考えての配慮かと思っていましたが、案外バッキングシートを補強することでの捲れ上がり防止のためなのかもしれません。
試料:センシュラミオ1、センシュラミオ1 コンケーブ。各最大吸水量は20ccと44.1ccとコンケーブが2倍以上の吸水量という結果となりました。共に膨潤型に分類して良いと思いますが、ミオの中央部分の皮膚保護剤は最後はグニャグニャで保形出来ない状態になりました。
この状態でも溶けることはありませんでしたが、コンケーブの最期は若干溶解が認められました。
センシュラミオ1: 浸水後15分の時点で周辺部皮膚保護剤にぬめりが発生。30分後にはその透明のぬめり成分が溶解したためか若干重量減少。これが何かわかりませんが、他社の面板にあるようなfluidタイプ(液状)のPIBが塗布されているのかもしれません。機会が有ればメーカに尋ねてみたいと思います。
1時間を経過すると中央部が吸水を始め、周辺部はめくれ始めました。今回の実験の結果、センシュラミオ1が2層の皮膚保護剤の積層型タイプと判明しました。周辺部は前回の面板耐久実験ではほとんど変化が見られませんでしたが、本実験により膨潤タイプの皮膚保護剤であることも判りました。ただし中央部皮膚保護剤に比べ、吸水力、膨潤度ともに半分以下で吸水にも時間を長く要しました。
また外見、色味から、コンケーブ周辺部の素材と同一かと思っていましたが、これは別物だと思われます。
写真Cl1-2は中央部の皮膚保護剤が取り除かれた後の面板で、バッキングシートの上から全面に基材となるような皮膚保護剤が塗布されているようです。ストーマ孔に向かって皺が寄って収縮している様子も分かります。
コンケーブ:浸水後3時間で中央部分の皮膚保護剤がわずかですが溶け始め、6時間後にははっきり溶解が認められました。最終的には溶けはしましたが、かなり長時間にわたり保形しており、実際の使用時は膨潤タイプと言っても良いと思います。
今回の実験を通して膨潤タイプと呼んでいる皮膚保護剤にも長時間の浸水により以下の4つのタイプがあることが分かりました。
① 吸水現象は飽和しても、全く形状が崩れない
・ホリスター社 ModermaFlex FW, FT, やわぴたFT
② 浸水継続で最後は保形出来なくなる
・アルケア社 セルケア1TD、コロプラスト社 センシュラミオ1中央部、ビーブラウン社フレキシマ アクティブ、マーレン社 ウルトラマックス/Flat、コンバテック社 エスティーム
③ 溶けないがボロボロと分解する
・ダンサック社 ノバライフ1TRE
④ 長時間の浸水で溶ける
・コロプラスト社 コンケーブ中央部、ビーブラウン社 フレキシマ
試料:エスティームインビジクローズ ドレインパウチ中長期
浸水後1時間でようやく吸水が始まりだすが吸水現象は非常に穏やかでゆっくりと進行。5時間後周辺部の捲れ上がりが若干始まり、徐々に平らな面板がうねり出し、10時間を過ぎてストーマ孔部分にヨレが発生しました。
20時間がたった時点で形が崩れて腹壁には最早貼りつくことが出来ない状態とみて寿命と判断しました。この時の吸水量は15.5ccと相対的には少量でしたが、そのまま浸水させて置いたところその後も吸水を続けていきました。
最後は写真(CO1-2)のような形状となり66時間で廃棄としました。この皮膚保護剤の飽和吸水量は不明でしたが、形を崩しても吸水を続ける皮膚保護剤の典型的な例と言えます。
4-6, Dansac(ホリスター社)
試料:1)ノバライフ1TRE、2)ノバライフ1フィット、3)ノバ1FUx5
1)ノバライフ1TRE:浸水後30分、1時間たってようやく目視で吸水が分かる面板もあるなか、TRE(トレイ:デンマーク語で3を意味するそうです)は浸水直後からみるみる吸水していきます。
薄くわずか5.6gの面板を水に浸すと、すぐに吸水が始まり(D1-1)、5分後から周辺部の捲れ上がりが発生しました。15分後には菱形に変形し11.3ccを吸水、しばらくすると3角形に変形しながらもいぜん吸水し続け、表面はミョウバンの結晶のようにざらざらとした見た目(触ってみると結晶とは違い柔らかい)に変化していきます。
この現象(凝集)は更に続き結晶のような先端がどんどん大きくなり、120分後には53ccの水を吸着。そのまま水に浸し続けて置くと3時間後には写真D1-7のように、手で持ち上げようとしたところバッキングシートからボロボロと剥がれ落ちてしまいました。
今回の実験でこのTREは膨潤タイプにもかかわらず、溶解型面板すら寄せ付けないと言って良いほど圧倒的な吸水力を示しました。新世代の面板(皮膚保護剤)の登場と言って良いと思います。
また今回の実験のように水が存分にある際のこの皮膚保護剤の振る舞いはとても興味深いものですが、一方実際に装着してみると、汗や水分の量が不十分な環境下では十分な膨潤現象が見られないケースがありました。
2)ノバライフ1フィット、3)ノバ1フォールドアップx5
共にストーマ周辺部に厚みを持たせた溶解タイプで、共通の皮膚保護剤を使用。
フィットの方は15分で薄い周辺部が捲れはじめ、30分、45分と大きく捲れ上がってきましたが、1時間を超えると溶解が始まり、再び面板は平らな状態に。2時間後には皮膚保護剤が水に溶けだし、寿命と判定しました。
2時間時点の吸水量は26.2ccで、その後も浸水継続したところ4時間後に38.9ccまで観察。
ノバ1FUx5は浸水30分後から周辺部が溶け始め、時間と共に順調に溶解が進み、3時間後には溶けて一部変形が認められたため寿命と判定しここで終了しました。終了時点の吸水量は32.7ccでした。
4-7, Eakin(イーキン社)
溶解タイプの面板で、裏に不織布が張り付けてあるものの15分で捲れ上がりが始まり、1時間後には写真(E1-1R)のように。また同時に溶解が始まった事により次第にフラットに姿を戻していきました。
溶解型は面板周辺部が捲れ上がろうとしても、腹部に接着している限りはいずれ皮膚保護剤が溶けることにより腹部形状に追従してくれます。
耐久実験では一番最初に落下した本面板ですが、単位面積あたりの吸水力ではTREに次いで第2位となりました。浸水1時間後から皮膚保護剤の溶解が少しづつ始まり、2時間後には皮膚保護剤が水に溶けだして寿命と判断しました(19.8cc)。その後も水に浸して置きましたが、結果的に2時間の吸水量を超えることなく飽和し、4時間後からは重量が減少し実験終了。
4-8, Hollister(ホリスター社)
試料:ModermaFlex SF, FW, FT, やわぴたFT
ModermaFlexは装着目安期間に応じて短い方からSF、FW、FTの三種類が用意されており、SFのみが溶解タイプで他の2種は膨潤です。最近の米国のホリスター社のサイトではモデルマフレックス(ModermaFlex)ブランドが無くなり、平面タイプ(Flat)と凸面タイプ(Convex)の表記の後にFW(FlexWear), FT(Flextend)のみの表示となっています。
またSF(SoftFlex)はラインナップから無くなり、それに代わって”CeraPlus”という皮膚保護剤にセラミドを配合して保湿効果を持たせた新しいタイプが販売されています。
今回の実験で最も苦労した面板が、SFを除くホリスター社の膨潤タイプでした。SFは浸水後45分で周辺部の捲れ上がりが発生し、その後1時間(10cc)、2時間(16.8cc)と順調に吸水し続け、3時間後の21.2ccをピークに溶解が始まり寿命としました。
FW、FTは共に浸水初期の吸水はわずかで、数時間たっても膨潤はもちろん、何ら外見上の変化が認められませんでした。実験環境に不備があるのではと疑い、次partに詳しく結果を述べますが水道水の代わりに生理食塩水を、水温を室温から低温、室温、肌温と変化させながら確認してみました。
結果的にFTは20時間後に14.7ccを最大値に、FWは25時間後に6.8ccをピークに重量が減少、やわぴたFTは80時間後に23ccという結果となりました。その間FT, FW共に外見上の変化は全くと言って良いほど認められませんでした(写真H2-3, H3-3は10日間浸水した後のもの)。
やわぴたFTのみ、浸水後30時間を過ぎたころから吸水により面板が茶色から白色へと変化していきました。その後も長時間ゆっくりと吸水を続け、80時間を超えてもまだ飽和したとは言い切れない状態でしたが、ストーマ孔部分が変形(H4-2)してきたため終了としました。
4-9, Mareln(マーレン社)
試料:UltraMax Flat, UltraMax
UltraMax FlatとUltraMaxの皮膚保護剤は同じもので膨潤タイプです。その違いは、面板の裏に黄色の保護プレートが接着してあるか(UltraMax)、無いか(UltraMax Flat)の違いです。UltraMaxは更に保護プレートの中心部からベルトタブが付属しています。
Flatは薄く(6g)、大きな(88.9㎠)面板で、浸水後15分で捲れ上がりが発生(M1-1)する一方、UltraMaxは、プレートが片側に接着されているためか1時間程してようやく吸水が目視で確認できるほど差がありました。こちらはプレートにより捲れ上がること無く最後までフラットのままで、ネーミングが逆な気がしてなりません。
5時間後にはFlatは五角形状に変形しながら26.8ccを吸水し(M1-2)、ストーマ孔周辺部には皺が寄りストーマ保護が機能している様子が分かります。UltraMaxは若干吸水反応がFlatに比べて遅く、5時間後でも皮膚保護剤表面はデコボコ(M2-1)して、まだ十分水分が保護剤全体に行き届いていない様子です。
最大吸水量は共に20時間後に46.5cc、46,4ccという結果となりました。その後も水の中に入れ続けたところ、大きく面積を広げ他では見ない面板の姿を見せてくれました(M1-4, M2-2)。最後まで溶けませんでしたが、コンバテックのエスティームやセルケアと同様に保形出来ない最期となりました(M2-4)。
4-10, 面板の吸水量の時間推移と最大吸水量
グラフ3は面板単位(㎠当たりではありません)の吸水量の時間推移と右側の赤枠に最大値とその値に達するまでの時間を記載しています。グラフ中には途中で寿命を迎えた5種も含まれており、TRE以外の赤丸が溶解タイプ4種です。最大値はあくまでも面板としての体裁を保っている間のものです。
グラフ3: 各面板の吸水量の時間遷移と最大吸水量
時間軸は等間隔スケールにしてありますので各皮膚保護剤の吸水力特性が分かると思います。実験前の予想では浸水直後は勢いよく吸水し、その後緩やかな飽和曲線を描くことを想像していましたが、予想以上に吸水期間が長時間にわたり、今回はほぼ直線的に増加していく部分データの取得に終わった感があります。
ノバライフ1TREと全溶解タイプは2~4時間の早期に寿命(面板としての吸水量のピークまたは溶解)を終えますが、膨潤タイプは8時間時点の吸水量から更に大きく増加した面板もありました。セルケアとフレキシマアクティブがこれに相当し、セルケアの吸水カーブは8時間ほどで綺麗な飽和曲線を描くと思っていたのですが、その後もどんどん吸水を続け挙動がうまくつかめませんでした。
このグラフはpart2の総括として見ていただきましたが、今更ですが最大吸水量等は実際のパウチ装着の際に問題となるような数値ではありません(すいません)。part1で述べた”面板に要求される汗吸収量”の表から15ccを超える吸水後の面板の挙動は派生データとみなしてよいと思います。
これらは面板として最も重要な初期の吸水性や粘着性等を追うための様々な素材の配合の末、派生した結果に過ぎないと考えるからです。
逆に初期から長時間にわたり吸水量の少ない面板に関してまだ十分の調査が必要で、次回は追加実験、考察を続けます。
つづく
汗、水に強いパウチ面板は? -3-をUpしました
面板の吸水力を数字で体感するための吸水力Indexの話です。
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