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11.152017
各社ストーマパウチの寿命比較:面板の耐久実験
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各社ストーマパウチの寿命ランキング
(面板の最期までの経時変化を写真でご紹介)
写真1:塩化ビニル板に貼り付けられた各社パウチ
ストーマパウチの交換頻度は、各自の事情で様々ですし、汗をかく夏場と冬場でも違ってきます。弊社のユーザ調査では3日に1度の交換がおよそ30%, 4日に1度が30%という結果が出ています。
このパウチの交換頻度、サイクルを決定づける一番大きな要因が面板の寿命と言えます。パウチ寿命とは構成部品の何れかが機能しなくなった時を言いますが、今現在既に様々な工夫が施されてきたパウチ(バッグ)そのものが1週間程度で漏れたりすることは考えにくく、排出口の問題によりパウチの交換というケースも殆どありません。
通常は面板の吸水や剥がれ、臭い漏れで寿命が決まると考えて良いと思います。各メーカのパウチ交換目安期間はそれぞれのカタログに記載してありますが、メーカを越えて同一条件下でパウチの接着耐久試験をすると、どのような差が出るのでしょうか。
溶解タイプと膨潤タイプの面板の違いはあるのでしょうか。ストーマパウチの接着比較実験を通して、現在市場に出ているパウチの寿命に関して考察してみたいと思います。
1、実験目的
1、検証:メーカや面板(皮膚保護剤)の種類によりパウチ寿命(接着耐久時間)に差があるのか
2、寿命を迎えた面板及び皮膚保護剤の観察
3、皮膚保護剤の接皮側(腹壁側)からの観察(腹部の皮膚保護剤の残り方)
本実験は、面板の経時変化による剥がれを観察するもので、臭い漏れの検証を行うまでには至っていません。あくまでも面板、皮膚保護剤が長時間の水分に耐え、腹壁から剥がれ落ちるまでの接着力を比較するもので、実際の使用環境におけるパウチ寿命とは異なります。
しかしながら臭い漏れの要因は皮膚保護剤の溶解、膨潤などによりもたらされるものであることから、剥がれ時間を観察することで何らかの寿命に関する傾向は推察出来るのではないかと考えました。
一般に交換時期目安は面板のストーマ孔の周辺の5mm~10mm幅で溶解、膨潤が確認された時等とありますから、今回の実験より相当早くその時期を迎えるものと考えられます。
2、実験サンプル
7社8種の以下のパウチを使用しました。
皮膚保護剤、親水性ポリマー、疎水性ポリマーに関しては、Tipsの“面板のちょっと深い話1”もご参照ください。(本レポートはかなり長いので、皮膚保護剤剤の詳細や、細かな実験方法を飛ばして4、実験経過へお進み頂いても寿命に関する結果はおわかりいただけると思います。)
表1 実験サンプルと皮膚保護剤
各社の製品選定にあたっては、皮膚保護剤の親水性ポリマーはCMC、疎水性ポリマーはPIBを基本としているものを中心に選定しました。また他社にはないSISのみを疎水性ポリマーとして使用しているビー・ブラウン社の面板及び皮膚保護剤も興味がありましたので今回の試料としました。
3、実験方法
JIS規格T 9233-1997でストーマ装具の検査方法が定められていますが、皮膚保護剤の項目は、①表面のpH測定、耐水性(面板の片面、3時間、24時間後測定)と②一般粘着力測定に限られていて、今回の実験目的とは若干違いますから、弊社で独自に環境を設定して実験を行ってみました。
①5mm径の複数の穴の開いた透明のPVC(塩化ビニル)板の面上に、パウチを貼り付け、垂直に立てかける。各パウチの面板の中央穴は35mm径で統一
②それぞれのパウチに100ccの水を入れ、室温20℃~35度、湿度80%以上の室内に放置。張り付けられた面板の内側(接皮側)からはPVC板の5mm径の穴から水分を吸着し、その過程を観察するものです。
4、実験経過
実験スタートから変化が見え始めるのは36時間が経過した頃からです。そのあたりから塩化ビニル板の穴あき部分の保護剤が水を吸って白色に変化し始めます(写真2)。
アルケア社、コロプラスト社(アシュラ)、ビー・ブラウン社、ダンサック社のパウチは面板周辺部にヌメリが感じられるようになってきます。42時間~48時間で塩化ビニル板の5mm穴から溶解タイプ、膨潤タイプに関わらず皮膚保護剤が飛び出して来ます。
また面板中央のストーマ孔は、当初の35mmから全て小さくなっており、ストーマ周辺部を保護していることが確認できました(Tips面板の深い話2参照)。
それ以後に関しては、それほど大きな変化はなく、実験開始後4日目~7日目の間にイーキン社、ホリスター社、ダンサック社、コンバテック社、コロプラスト社(アシュラ)の順にPVC板から剥がれて落下しました(表2参照)。
その後に残った3社はその後大きな変化も見せず、なかなか落ちずに開始後13日目でビー・ブラウン社が、15日目でコロプラスト社(センシュラミオ)が、最後は16日目でアルケア社のパウチが脱落して本実験は終了となりました。
5、各社パウチの耐久時間ランキング
1位:アルケア社 セルケア1・TD:373時間(15.5日)(セルケア1の使用レポート)
2位:コロプラスト社 センシュラ ミオ:339時間(14.1日)(ミオの使用レポート)
3位:ビー・ブラウン社 フレキシマ アクティブ:300時間(12.5日)(フレキシマの使用レポート)
4位:コロプラスト社 アシュラ コンフォートワイド:160時間(6.7日)(アシュラの使用レポート)
5位:コンバテック社 エスティームインビジクローズ:159時間(6.6日)(エスティームの使用レポート)
6位:ダンサック社 ノバ1 フォールドアップX3:113時間(4.7日)(ノバ1の使用レポート)
7位:ホリスター社 モデルマフレックス SF:92時間(3.8日)(モデルマフレックスの使用レポート)
8位:イーキン社 フラット ドレナブル:84時間(3.5日)(イーキンフラットの使用レポート)
表2:各社パウチ面板の接着耐久時間
表2は各社パウチの接着耐久時間をグラフ化したものです。表1の面板の組成表と比べてみると、疎水性ポリマーにPIBのみを配合しているパウチが溶解タイプとして早めに落下しています。これはある程度予想された結果で、皮膚保護に主目的をおく代償として長期にわたる接着力を犠牲にする、というコンセプト(?)の商品だからです。
コンバテック社がこの順番で落ちた理由は分かりません。SIS配合の膨潤タイプですから、もう少し長期間の耐久性を示すと予想していましたが、その理由としては、1). 面板の面積が他社に比べて極端に小さい、 2). 面板の硬さからPIBが主体でSIS成分はあまり多くない、等が考えられますがあくまでも推測の域です。
コロプラスト社の”アシュラ”は、渦巻部分にSISが配合されていますが、全体の配合比から考えると10%以下であり(目視です)、ベースはPIB主体の溶解タイプ系でこの順番は妥当と判断します。剥離後の面板は、SISの渦巻部分は溶けずしっかり残っていることが確認できます(写真右)。
表3にはその耐久時間を面板面積で割った単位㎠あたりの接着時間を示します。これは各面板の皮膚保護剤成分の皮膚への粘着力特性を表していると言って良いと思います。
表3:各社パウチの面板㎠あたりの接着耐久時間
表3のデータでは、やはり膨潤タイプの面板の接着持続力が長い事が分かります。コンバテックのパウチに関しては、純粋に面板だけの面積で計算したものと、周辺の保護シールを合わせて計算したもの両方を掲げています。接着力は皮膚保護剤により差が出ていますが、面板の面積と耐久時間との相関性は、顕著な傾向は認められないと言って良さそうです。
写真3に各パウチの落下直後の塩化ビニル板の様子とパウチの面板、皮膚保護剤の様子を掲げます。この様子を観察することにより、皮膚保護剤の接着寿命の際の腹壁の様子と面板、皮膚保護剤の様子、それぞれが観察できると思います。
写真3:落下後の腹壁側(PVC板)と面板接皮側の様子
さて、5製品落下後の残り3製品については、それまでの製品とは明らかに違う様相を見せていました。SISやEVA、水素添加SBR等を配合することによって粘着性、接着力が増強されているものと考えます。
予想以上に長期間化したため、コロプラスト社(センシュラミオ)とビー・ブラウン社の面板には青カビが、アルケア社の面板にオレンジ色の粘菌あるいはカビ(どちらかは不明です)が発生してしまいました。
13日目にビー・ブラウン社のパウチが落下しますが、これはPVC板と面板の剥がれによるものではなく、面板を構成するバックフィルムと皮膚保護剤の剥がれによるものでした。写真3のビー・ブラウン社のPVC板の様子を見てみると分かるように、まだ皮膚保護剤の多くが板上(お腹側に相当します)に残っています。
15日目にコロプラスト社(センシュラミオ)が落下しましたが、実験期間中面板の周辺部は水分をほとんど吸収することなく、厚み、色の変化も無く、周辺部の保護剤がわずかに溶けていくような様子で落ちました。この周辺部の保護剤は溶解タイプとも膨潤タイプとも言い難いものでした。
16日目のアルケア社セルケアに関しては、剥がれる数日前より面板上部が剥がれ、1cm以上の厚みに膨れ、見た目はお餅のようになっていました。センシュラミオと同様皮膚保護剤が自重に耐え切れずちぎれて落下したような様相でした。
6、まとめ
6-1、実験の結果、パウチの皮膚保護剤に関しては、一般的に言われているような、溶解、膨潤タイプの他、溶解と膨潤の中間タイプのような保護剤、あるいはいずれとも言い難い面板もあるような気がします。
アルケア社のセルケア1とコロプラスト社のセンシュラミオの中央部の保護剤がこれらに相当します。右の写真は落下後のセルケア面板の拡大写真です。膨潤タイプですが最後はかなり軟化します。センシュラミオの周辺部は何とも表現に迷います。溶けもしませんし、膨潤現象もみられません。敢えて言うならば伸縮性に富んだ樹脂テープでしょうか。
改めて今回の実験を通して各社の保護剤のタイプを述べます。
①イーキン社 イーキンパウチ:溶解タイプ
②ホリスター社 モデルマフレックスSFロックンロール:溶解タイプ
③ダンサック社 ノバ1フォールドアップx3:溶解タイプ
④コンバテック社 エスティームインビジクローズ ドレインパウチ中長期:膨潤タイプ
⑤コロプラスト社 アシュラコンフォートワイド:渦巻部分を除き溶解タイプ
(渦巻部分は脱落直後も溶けずにしっかり残っていました)
⑥ビー・ブラウン社 フレキシマアクティブロールアップ:膨潤タイプ
⑦コロプラスト社 センシュラミオ:中央部は膨潤/軟化タイプ、周辺部:いずれでもない
⑧アルケア社 セルケア1・TD:膨潤/軟化タイプ
6-2、疎水性ポリマーがPIBのみの皮膚保護剤は、3日~5日程度の接着力を保持
6-3、面板の接着力、寿命は、皮膚保護剤の成分に大きく依存し、その大きさ(面積)との相関性は薄い
6-4、疎水性ポリマーとしてPIBにその他樹脂を配合することにより、その接着力は最大5倍程度まで伸びる
以上
面板の接着能力だけみている限りでは、今後のパウチの使用期間はもっと長く出来る可能性は大いにあります。また特にふれていませんでしたが、各社パウチが落下するまでの4~16日間の耐久実験でどのパウチも100ccの水を蓄えたまま排出口からの水漏れが無く(コンバテック社のパウチの排出口の両端からは若干の滲みがありました)、改めて現在のパウチの優秀さを知ることが出来ました。
今回は寿命の長さを良しとするような論調で話を進めてしまいましたが、使用される方々の皮膚の状態により、長期に使用するよりも頻繁に替えたい方々もおられます。そのような方にとっては体質、皮膚の状況にあった皮膚保護剤の成分の方が重要になるわけで、いつかまた別の評価、実験も考えてみたいと思います。
以上
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オストメイト/お尻の痛みにお悩みの方々に向けた製品です
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