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11.222022
オストメイトの”おなら”の消音対策 -3
いよいよ各種フィルターによる”おなら音”に対する遮音効果を確認していきます
■ おならの防音・消音とは
パウチで覆われたストーマから発せられる音を、何らかのフィルターで覆うことで、前方へ伝わる音圧を減少させるということです。
おならの音はフィルターを介した時点で、①反射音、②吸収音、③透過音に分解されます。
①反射音とは、フィルターにより反射される音のことですが、一度反射されてもお腹で再び反射され前方に向かう音も含まれます。
②吸収音とは、フィルター内部に吸収される音です。元々の音波の波動エネルギーの一部が、フィルター素材の振動エネルギー(最終的には熱エネルギー)に変換されるものです。建築資材として部屋の防音等で壁と壁との隙間に挟み込むグラスウール等がよく知られています。
③透過音は、反射・吸収されずにフィルターを通り抜けていく音です。
ストーマを完全に密封した空間に閉じ込められれば別ですが、普段は半解放状態になっているわけで、たとえストーマと衣服の間にフィルターを置いてもそこからの音漏れは現実的には回避しようもなく、今回調査するフィルターの消音パフォーマンスは、フィルターの吸音率等ではなく、遮音によりどれだけ前方に進む音圧が減少できるかを見ていきます。
今回の実験環境を図1に示します。
■ 実験環境
図のようにPCに接続された外部スピーカを、上・下・左・右・背面の計5面に120mmの三層ウレタンで囲み、実験室内の余分な反響音を拾わないようにしておきます。
PCから20Hz~20KHzまでの正弦波(人間の可聴域音です)を発生させ、スピーカから400mm離れた位置に置いたマイクより各周波数の音圧を観察します。今回の実験では、スピーカの前に様々なフィルター(遮蔽物)を置いてそれぞれの消音効果を確かめます。
写真30(写真3左)はスピーカの前に何もフィルターを置かないままで測定した各周波数ごとの音圧データで、これがフィルターのパフォーマンスを確かめるための基本データになります。
■ ストーマを手で押さえたら効果ある?
写真31(写真3右)は、フィルターの代わりに、スピーカを手で押さえた状態で測定した際のデータです。これはおならの出る際に急遽ストーマを手で押さえた状況を想定しています。
両方の赤い音圧グラフを周波数毎に見比べて行きますと、100Hz~2kHzまではあまり効果なし(max-5dB)と見えますが、2KHz~5KHzで-20dB(1/100)、それ以上5~20KHzの高音域では最大-30dB(1/1000)と差が出ていることが分かります。
一般的にフィルターで音を吸収するためには、ある特定周波数の波長の1/4の厚さが必要と言われています。
大気中の音速を秒速340mとすると、最大可聴周波数20KHzの波長は17mm、1KHzでは340mm、100Hzでは3400mm。これを吸収するためのフィルターの必要厚は、それぞれ4.25mm、85mm、850mmとなり、高周波は5mm厚程度のフィルターでも吸収可能ですが、100Hzともなると、85cmの厚みが必要となり、如何に低周波が扱いずらいかがわかると思います。この意味でフィルターそのものの吸音を頼るのではなく、あくまでも遮音を考えざるを得ないかがわかります。
今回の試料は、ストーマの前に置けることを前提に様々な材料を用意しました。
まずは、吸音材として市販されている厚さ10mmの吸音ボードとグラスウール。硬めの5mm厚のフェルト布、1mm厚人工皮革、最大30mm厚の柔らかシリコンゴム、気泡入り1mm厚段ボール、5mm厚EVA樹脂シート、10mm厚凸凹硬質ゴムシート、5mm厚デコパネ(発泡スチレンボード)、その他0.2mm厚鉄板や2mmの綿生地、5mmの雑誌なども試してみました。
写真3-1に各種フィルターの周波数特性を示しますが、写真だけではわかりにくいため表にまとめてみます。
■ 各種フィルターの遮音効果ランキング
ランキングでは、前回調査したおならの周波数帯域(200Hz~9KHz)に関し、全帯域、低域、中域、高域とそれぞれに分けて観察しました。
表中のマイナス数字は、フィルターが無い時に比べ、どの程度の音圧が減少したかを示すdB(デシベル)値です。
参照データとして、すべての帯域で120mm厚の3層ウレタンマットと、手押さえ時の遮音効果も同時に示してあります。
まず周波数帯域毎の減少音圧の数字に着目すると、中域(1KHz~5KHz)、高域(5KHz~9KHz)は-20dB以上の遮音が出来ていますが、低域(200Hz~1KHz)ではウレタン素材を除き、全て-10dB未満と、その遮音効果が乏しいことが分かります。低い音に関しての遮音はどのフィルターを使用しても現時点では難しい課題として残ります。
■ 各種フィルターに関して
・ウレタンマット
弊社のうつ伏せ用クッションの素材です。120mm、3層という厚みから、全帯域で圧倒的に消音効果が高い結果となっています。ただし12cm厚のクッションをお腹の前面に装着つけることも出来ず、あくまでも参考値として掲載しておきます。
・グラスウール、吸音ボード
不思議だったのは、吸音材として市販されているグラスウールや吸音ボードの消音パフォーマンスが全く見られないことです。素材として薄すぎる10mm厚を選んだことに起因する可能性はありますが、吸音による遮音効果は実験からは得ることができませんでした。
・0.2mm厚鉄板
実際のフィルターとしては硬くて使用できないものの、わずか薄さ0.2mmにも関わらず低域と中域で高い遮音効果を示したことは注目です。似たような特性で、柔軟性のある素材があれば有望かもしれません。
・シリコンラバー
シリコンラバーは今回は厚さが30mmと厚いこともありますが、遮音効果としては上位に位置します。肌触りも柔らかくストーマの前につけるフィルター素材としてはかなり有望です。10mm厚程度のシート素材を探してみたいと思っています。
・2mm厚人工皮革
更に薄く、柔軟性もあり、高い効果が見えた素材として2mm程度の人工皮革も注目です。全帯域でウレタンマットを除き全てベスト3以内の遮音効果が見れました。この厚みであればパウチの前を覆うことが可能で、他の人工皮革も調べてみたいと思っています。
・5mm厚フェルト
人工皮革に次いで、目の詰まったフェルトも遮音効果が見られます。柔らかいフェルトでは透過率が高く遮音効果は乏しいのですが、密である素材であることがポイントとなってきます。洗濯を繰り返すと更に効果が出てくる可能性があります。
・その他
見た目が似ているデコパネやEVAシートでは上記素材に比べあまり高い効果が見られませんでした。また粗目の綿生地なども音の透過率が高く、市販の布地でできたパウチバッグではあまり大きな消音効果が期待できないのではと危惧します。
5mm厚の雑誌が、高域で-30dB以上の遮音効果を出していることも注目です。
■ 最後に
まだまだフィルター素材調査は続けていきますが、おならの音の消音に関しては、低周波域の遮音がキーになると思います(波長的に低域の吸音は難しいと考えます)。高音域はかなり吸収、遮音ができそうで、-50dB(1/100,000)程度までは可能性ありと考えます。
更に今回は単品フィルターとしての遮音パフォーマンスの実験でしたが、実は複数のフィルターを組み合わせることにより、より効果を高めることが可能です。
その辺も今後実験を継続しながら報告していきます。
オストメイトの方々の悩ましいおならの音が少しでも消音できる方法を今後も模索していきたいと思います。
■ ご報告
自社宣伝となってしまいますが、弊社ではオストメイト用のお風呂/外出時用のマスキングベルトを某メーカと共同開発しております。発売は2023年春を予定しておりますが、今回実験したような様々なフィルターをパウチの前面に取り付けられるようにフィルターポケットを用意しております。
ご興味がおありでしたら是非以下に投票ください。
